芸能人はカードが命!18にて頒布のコピー本
「さぁ、長谷川まつりの話をしよう。vol.0」掲載の「長谷川家探訪」を再編集しました。
また、ブログ書下ろしのSSも掲載しております。
お暇でしたらぜひご覧ください。
長谷川家探訪
新刊「長谷川家外商の手記」を完成させた後、モデルになった街を訪ねた。読まれた方の中で既にお気づきの方がいるかもしれないが、横浜市中区元町である。
かつての横浜開港の名残が色濃く残るこの高級住宅街は、現在でも多くの外国人居住者が生活しており立派な教会が点在している。また、開港当時の諸外国要人が住んでいた建物や庭園が見学できるになっており、学生時分は建物について、そして現在は長谷川家に思いを巡らせるためこの地を訪れた。
東急東横線の「元町・中華街駅」で下車し、山下公園方面に出る。元町を横目に港の見える丘公園を目指し、待ち構えるのは外商さんが車を走らせていたであろう登り坂である。普段から運動をあまりしない身にとっては息を切らしてしまうような急な登り坂だった。
上る途中の左手には港の見える丘公園の一部が広がり、まつりちゃんが祖母とお散歩でここまで来たに違いないと思ったら元気が出た。オタクは単純である。
おかげでこの入り口の横浜市イギリス館から反対側にあたるブラフ18番館へ、駅に到着した16時過ぎから閉館の17時までになんとか一帯を巡ることができた。
途中「ここは長谷川家じゃないな。」と思った建物は見学を省略したので全部を見たわけではないが。よく考えたらどこも彼女の家ではない。
ちょうど坂を上りきるか切らないかのところにある港の見える丘公園内「横浜市イギリス館」の位置は、その建物共に長谷川邸のイメージに近く、また、中庭とは別に横浜の景色が一望できる大庭園を構えるという点でかなりポイントが高い。
こちらは朝10時から夕方17時まで無料で見学できるため、ぜひ庭園も含め見学し長谷川まつりの実家を感じてほしい。
また、イギリス館を超えた先に有名な私立の学校も存在し、私が歩いた時刻はちょうど下校時間らしく、同じ制服を着た生徒が2人で合唱曲のそれぞれ異なるパートを歌いながら帰るなど、とても微笑ましい光景を見ることができた。
そして、もし長谷川まつりがアイドル以外の選択を行ったら、きっと今すれ違った子達みたいに、上品にはしゃぎながらしながらこの辺を歩くのだろうなと思ったら、目頭がじわりと熱くなった。
ブログ書下ろしSS
「もし、長谷川まつりがアイドルではなく普通の人生を歩んでいたら。」
波に反射する夕焼けを遠くに望む通学路。
アスファルトをこつん、こつんと規則正しく鳴らす女学生達。
「まつりさん、課題曲のパートは覚えました?」
「ええ、音程は。歌うとなりますと、高音が少し難しいのですが…。」
隣の少女の頭一つ分、背の高い彼女が答える。
「あら、では一緒に歌ってみませんか。私もコーラス部分の練習をしたいのです。」
「もちろん、一緒に歌いましょう。奈々さん。」
せーの、で歌い始める二人。
指揮棒を持つような手の構えは、打ち合わせをするまでもなく揃っていた。
“同じクラスとか、家のキョリは 運命と呼んでもいいんだ”
“なんか気が合う 会えてヨカッタ 神様に感謝!”
「まつりさん、ちゃんと歌えているじゃありませんか。謙遜しなくてもよろしいのに。」
「ありがとうございます。
でも、元々不器用だし、人の倍以上練習しないと上手くならないから…」
「あ、敬語じゃない。まつりの負けね。」
「奈々ちゃんこそ!」
お互いの敬語ゲームの敗北に笑い合う二人。
背の高い彼女の髪は夕焼けに染まり、毛先は穏やかな波のように揺れていた。
「ねえ、まつり。もし私達が別のクラスだったら、お互いに面識が無かったらどうする?」
「うーん…ちょっと想像できないなぁ。
それでも、私は奈々ちゃんと仲良くしたいな!」
―終―
斜体部分「放課後ポニーテール」歌詞より引用